法律・倫理

倫理的問題への挑戦

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遺伝医療に伴う倫理的問題

 

1991年に国際ヒトゲノム計画が開始され、長い年月をかけて2003年に全塩基配列の解読が完了し、以降は技術革新もあり加速度的にゲノム領域の研究は進んでいます。

我が国では、2013年4月に「新型出生前診断(NIPT)」が導入されたり、遺伝子解析サービスなども複数企業から販売されたことで、私たちにとって遺伝医療は身近な存在になりつつあります。

また、近年は「ゲノム編集」と呼ばれる遺伝情報そのものを書き換えることが技術的に可能となったことで、これまで不治の病とされてきた病気についても希望が見えてきました。

しかし、遺伝情報を扱う以上、倫理的問題を切り離すことはできず、山積みにされた倫理的問題によってテクノロジーの発展にブレーキがかかっていると言ってもいいほどです。

 

倫理的問題は「差別問題」に集約される

遺伝情報を書き換えることができれば、外見、知性、才能、体質、病気への耐性など、自分の思い通りの人間を作ることが可能となるため、クローン人間やデザイナーベビーを作ることは世界的に禁止されています。

米国は遺伝医療が遥かに進んでおり、遺伝子情報に基づく健康保険に関する差別(加入の資格や保険料の決定など)や、雇用者による差別(雇用、解雇、仕事の割当、昇進や降格の決定など)への問題が生じたことで、2008年に「米国遺伝子情報差別禁止法(Genetic Information Non-Discrimination Act: GINA)」が設立されました。

しかし我が国は遺伝情報に対するリテラシーが極めて低い上に、米国のGINAのような遺伝学的差別を禁ずる法律に相当するシステムがありません。

 

遺伝情報に基づいた医療が行われる時代

 

これからの医療は、全ての病気に対して遺伝情報が不可欠となります。

一方で、技術革新ばかりが急速であったため、全ゲノム解析は完了したもののその解釈が未解決となっている部分が膨大に残されており、倫理的問題への対応もかなりの遅れをとっているのが現状です。

これは、一般の人々のみならず、医療者についてもリテラシーを高めていく必要があります。

 

人工妊娠中絶の可否

 

NIPTや出生前診断を受けて胎児に病気や障害があることが判明しても、現在の医療業界ではそれを理由に人工妊娠中絶を行うことは法的に認めていません。これは、上記のような「差別問題」につながることを懸念しているためです。

しかし、実際にはNIPTを受けた妊婦の中で胎児の異常が診断された場合、妊娠継続が可能であった妊婦の96.5%(334人)が、積極的な人工妊娠中絶を選んだという報告があります。

母体保護法(14 条)では、「経済的理由や暴行若しくは脅迫によって妊娠した場合」のみ我が国では人工妊娠中絶を認めており、遺伝カウンセリングを受けた後も希望する妊婦に対してはこれを施行しているのが現状です。

 

カウンセリング教育自体を変える必要性

 

診断を受けて人工妊娠中絶を希望する妊婦に対して、一般常識として普及している堕胎を「善し」としない思考の枠組みを持った医療者は、どのようなカウンセリングを行なっているかを考えたことはあるでしょうか?

私は、研修医時代に胎児診断専門施設で研修する機会をいただき、世界屈指の診断技術を持つ産婦人科医の診療に触れ、そこで診断された遺伝病や染色体異常、胎児奇形に対する深刻なカウンセリングに陪席することができました。

ー 不安を抱えたクライエントが検査を申し込みに来院する時点から、複数回のカウンセリングや、様々な手法を用いた出生前診断を適切なタイミングで行い、そこから得られた診断結果を慎重に説明し、人工妊娠中絶に対する両親の決断が下される ー

この一連の流れを実際に目で見て、肌で感じ、クライエントと医療者から発せられる生の声を浴びることは、私にとって非常に貴重な経験であり、現在の活動へも当時の想いが色濃く反映されていることを実感します。

 

真に中立的ではないカウンセリング

クライエントは、医療者に比べて圧倒的に情報弱者です。

したがって、医療者側が情報を制限することなど、いくらでも可能です。

本来であれば「中立的とされるべきカウンセリング」が、カウンセラーを育成する教育プログラムの段階から、我が国の法律に則した手法、つまり大衆からの反感を買わないようにすることを重視した一種のバイアスがかけられた手法で、一般常識や前提という無意識下で行われています。

また、カウンセリングを行うカウンセラー自体に想像力の限界があり、次世代、次々世代・・・と継承されていく問題についてまで思考しているカウンセラーは、ほぼいないと言っても過言ではないと思います。

 

例えば、胎児診断における重症度は、生まれてきた子供が社会に出てから一人で生きていけるかを基準とした「社会的自立度」で判定されていますが、この点においては本人の精神的負担は一切考慮されていません。

他にも例をあげると、カウンセリングの現場では以下のような誘導が行われています。

 

・卵における染色体異常の頻度は20代、30代ともにほぼ3/10、40代になるとダウン症発生頻度が増加するため6/10前後まで増加するという情報を事前に与えることで、染色体異常は一般的に珍しいものではないという前提をクライエントの思考に入れ込んでからカウンセリングを行う。

 

・胎児診断で異常所見が見られていても、生まれてきた子供を抱いてみたら予想外に普通の外見であることや、子供を見てから愛着がわくことも実際には起こりうるため、医療者側がどこまで情報提供するかなど工夫し、生まれてくるまで希望を持たせるような対応をとる。

 

・見つかった胎児異常が、生命や社会的自立を脅かすものでない病気であった場合、胎児に対して前向きな感情を抱かせるようなカウンセリングを行う。

 

高度なレベルになってくると、胎児エコーなどはクライエントもリアルタイムで確認することができるわけですが、その胎児検査の段階から見せ方や伝え方を巧妙に操ることで、いかに戦略的にカウンセリングまでつなげていくかということまで計算されています。

 

確かに、このような見解は事実でもあるので、もちろんこれらを含めたカウンセリングを行う必要はあります。

しかし、世論を常識化しているためか、情報を操作することにより一種の誘導が行われているという事実に、クライエント自身が気づき、後悔のない自分なりの決断を下すということが、何よりも重要です。

 

現実的には、遺伝子の脆弱性に環境要因が加わることで発症する「多因子疾患」と言われる病気の方が圧倒的に多く、そのような病気を出生前診断で予測することは現状では不可能です。

また、遺伝子突然変異で発症する病気も数多くあるため、出生前診断を行うメリットは、生命が誕生する前から生まれてくる子供の病気や障害を認識しておくことで、出生後の現実世界で対応していくための準備ができることでしょう。

しかし、これもまた、両親がどんなに思考を凝らしても、いずれ想像力の限界に達します。

極論、生まれてくる子供が出生後から何を考え、どのような問題に直面して生きていくことになるかは、両親やカウンセラーではなく、当事者にしか分かり得ないのです。

 

「百聞は一見に如かず」ならぬ、「百見は一体験に如かず」です。

遺伝診療経験の豊富な医師・遺伝カウンセラーにも見えていない、当事者でなければ想像すらできない世界が確実にあります。

Deli-Med は、このような永遠のテーマとされてきた倫理的問題についても積極的に挑戦し、歪んでいると思われる世論や常識についても意見を提示し情報を発信していくことで、皆様にとって、また、まだ見ぬ皆様の子孫にとっての「本当の幸せ」を追求していく所存です。

 

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